個性が伝統をつくりだす

個性が伝統をつくりだす

変革のバトンを引き継いでいく

これまで受け継いできた伝統、またそこで培われたお客さまとの信頼関係は、廣榮堂のかけがえのない財産です。しかし、私たちが目指す「和菓子から始まる笑顔と幸せづくり」「改革の継続」のためには、常に未知の挑戦が続きます。また、老舗と呼んでいただけるお店ほど、時代ごとに新たなお客さまとの関係を育てることも大切だと考えています。

そこで重要になるのは、若手の発想力・行動力。もちろん、積み重ねてきたものを守っていくことは大切ですが、それはベテラン勢がしっかりサポートしていきます。新しい世代に期待したいのは、これまでにない感性で、廣榮堂の可能性を切り拓いていくことです。

性別も年齢も、違いの中から価値が生まれる

こうした考えにもとづき、廣榮堂では若手も重要なプロジェクトに参加できる気風を大切にしています。任せられることで、彼らが考え、動き、現場全体が活き活きとしてくるのを実際に見てきました。もちろん大きな成功ばかりではありません。時には思うような成果を得られないこともあります。しかし、その過程で結ばれた人々とのつながりや学んだこと、考えたこと、感じたことは企業・個人それぞれの中で大切な宝となっています。

また、和菓子の世界は、特に女性のお客さまが多いのも特徴です。お客さまと気持ちを共有し、同じ目線でこれからの廣榮堂を支えていく点で、女性の力もまた重要です。もともと製造部門では女性比率が高い廣榮堂ですが、近年は企画開発などのフィールドでも、女性の才能が活きる場面が大きく広がっています。

 廣榮堂が求めるものは、常に先輩が守り、新人が攻める、女性は繊細に、男性は力強く、といった紋切り型の期待ではありません。むしろ個々の特性とチームの化学反応こそ、新たな価値の源だと私たちは信じています。一人ひとりが、伝統と革新の未来をつくる主人公であってほしい。それが、廣榮堂の考える理想的な「老舗」の姿です。

知識や情報にふれ個人の中の
眠れる才能を引き起こす

人づくりが基本

人が会社で働くことの良さとは何でしょう? 安定した収入や福利厚生は、大きな要素といえそうです。もうひとつ、廣榮堂が重要だと考えるのが、企業とともに個々の「人」が自らを育てる場をつくることです。

知識・技術・感性を磨く。これをひとりで行うのは、誰にでもできることではありません。会社で働く良さは、そのためのヒントやチャンスが豊富に見つけられることにあると、私たちは考えます。また、経営側の視点から見ると、一人ひとりのステージアップが連鎖すれば、それが会社の力にもなるでしょう。これらの経験は日々の現場を通じて得ることが多いと思いますが、廣榮堂では他にも、さまざまな仕組みで社員が自分たちを「磨く」ことをサポートしています。

「食べ歩き」支援から資格取得報奨まで

美味しさを探求する感性を磨くため、社員の「食べ歩き」を会社が費用面で支援する仕組み。レポート提出を条件にして、そこで得たものが社内で共有されるようにもしています。

また、各種資格の取得による報奨制度があります。和菓子の企画・製造・販売現場で活きる幅広い資格群から、社員たちが自ら選んだものを対象に設定。合格すれば報奨金が贈られる仕組みです。若手限定ではなく、最近では50代の女性スタッフが、難関の販売士検定1級(商品計画からマーケティング、経営計画まで幅広い知識・判断力をみるもの)に合格するなどしています。

そのほか、瀬戸内海を望む前島での新人合宿など、各種研修も積極的に行っています。会社も人も、いくつになっても成長できるはず。そのための環境づくりは、今も進行中です。

社員と会社のいい関係

多フィールドを横断し、創作意欲を生み出す

最後に、私たちの考える、社員と会社の関わり方についてお伝えできればと思います。いま廣榮堂では、新人時代から部門を越えて様々な仕事を経験してもらうことがあります。むしろ、若い人たちにこそこうした機会が大切だと考えています。

創業160年を迎えた廣榮堂は、せまい意味での和菓子屋を越えた企業を目指しています。「お菓子から始まる幸せ」をさまざまな形でお客さまへ届ける――そのためには社員一人ひとりの目線も、開かれた世界につながっているべきだと考えています。今後そこでは専門性に加え、異なるフィールドを越えていく視点がより大切になると思うからです。

舞台芸術経営

こうした経験は、すぐにではなくとも、また最終的に「この道一筋」が向いている人にとっても、やがて必ず活きてくると信じています。もちろん、学校や前職で学んだものをすぐに活かせるなら何よりです。しかし廣榮堂には、食品について学んできた人ばかりではなく、先生になる勉強をした人も、数学を専攻していた人もいます。じつは絵が得意という人も、音楽なら人一倍詳しいという人もいます。そしてそれぞれが、仕事を通して自分がここにいる意味を見出していきます。

加えて重要なのは、個々の活動や個性・考え方が交わることでしょう。ユニークなアイデアも、優れた職人技も、堅実な実務能力も、互いに結びつくことで初めて動き出していくものです。廣榮堂の場合、多様な仕事や個性を持つ人々がチームとなって「廣榮堂」という企業を形づくっています。経営陣は、どうすれば社員同士、部門同士の結びつきをもっと強いものにできるかということ常に考え、そのためのビジョンと場をつくることこそ最重要課題と考えています。「仕事をもっとおもしろく」を合言葉に、一人ひとりに眠る才能を引き出しながら、共通の目標に向かって仕事を進めていくのです。