創業百六十年の歴史

創業百六十年の歴史

廣榮堂のはじまり

廣榮堂のはじまりは、安政3年(1856)まで遡ります。当時「きびだんご」は日常の食べ物として親しまれていましたが、日持ちはさほどしませんでした。これを茶席に出す新しいお菓子として工夫したのが、廣榮堂誕生のきっかけ、そして最初の「改革」です。
以来、その挑戦心は時代を越えて息づいてきました。きびだんごを武家茶人の指導で茶席向きに改良する試みや、山陽鉄道の開通に合わせた駅売り用・箱詰めきびだんごのアイデア、さらに車社会を予測した各観光スポットへの販路拡大など――。その発想はお菓子づくりの工夫から、お客さまへの新しい届け方や場づくりまで、様々です。

伝統と改革の旅はつづく

平成に入ってからも、チャレンジは続きます。世界的絵本作家・五味太郎氏が描く新しい桃太郎による「元祖きびだんご」のパッケージリニューアル。職人の知恵と最新技術が融合した生産工場の新設。また、黒糖や自然海塩を使用した新きびだんごの開発や、古民家再生手法を使い、カフェ併設のオリジナルな店舗開発も行われています。

岡山の地で改革を続ける

ものづくりには、長い積み重ねでしかできないことがあります。同時に、バトンを次代に繋いでいくには、革新的な発想が必要であるともいえるでしょう。
100歩のあゆみで築かれた伝統に、次の新たな一歩が加わるとき、それが明日の伝統になる。ひとりの時間、ひとりの力では成し遂げることのできない夢をつないでいく。今日も廣榮堂では、そうした営みが続いています。

こだわりのお菓子づくり

守ってきたのは「3つのこだわり」

「和菓子は五感の芸術」という言葉があります。見て、味わい、香りを楽しみ、柔らかさなどに触れ、菓銘の心地よい響きも感じながら和菓子のおいしさを知る。そこで私たちが大切にする、3つのこだわりがあります。それは、「おいしい菓子」「オリジナリティある菓子」「体にいい菓子」。私たちが和菓子づくりを160年続けてこられた理由は、このこだわりにあると信じています。それをわかりやすくお伝えする例として、ここでは「むかし吉備団子」についてお話しましょう。

美味しさ・独創性・安心を届ける

「むかし吉備団子」は、廣榮堂の顔といえるきびだんごの中でも本物の味を追求し、昭和52年に誕生しました。背景には、1970年代の山陽新幹線開通をうけた観光ブーム到来時、必ずしも品質の高くないきびだんごメーカーが乱立したという事実があります。そこで廣榮堂は原点に戻り、岡山市高松地区の農家と契約、できるだけ化学合成農薬や化学肥料を使わない特別栽培を委託します。全量買取という信頼関係で希少なもち米を確保し、これを石臼で挽き、丹精込めてつくる「むかし吉備団子」を商品化しました。この農家の方々とのお付き合いは、すでに40年以上に及びます。

「本物」の原点を大切に

「むかし吉備団子」は、決して昔を懐かしむだけの試みではありません。丹念に手をかけた安全・優良な素材を選び、丁寧なつくりで、安心して味わえる美味しさを目指す。パッケージにも秋田杉の木箱を使用するなど、本物にこだわりました。それは、かつて日常の素朴な菓子だったきびだんごを、上菓子としてステージアップさせた創業期から続くこだわりでもあります。おいしいお菓子はその素材である原材料づくりからであり、「むかし吉備団子」はそれらを忘れないための、私たちにとってのシンボルのような存在でもあるのです。

ものづくりから場づくりまで

お菓子に合わせて機械をつくる

廣榮堂がつくるのは、お菓子だけではありません。日々お菓子を生み出す場所づくりも、そのひとつ。本社生産工場は、手仕事とテクノロジーを融合させた和菓子づくりの拠点です。2000年の全面建替では、最新制御システムを導入。HACCP(食品製造の安全・衛生管理における国際的基準)準拠を目指しました。ただ、「お菓子に合わせて機械もつくる」というポリシーはゆずれません。廣榮堂では世界で1台だけの製造機械を設計、きびだんごに合わせて機械をつくることで独自の味を実現しています。また、煉り釜のふたや蒸篭(せいろ)にはステンレスなどが衛生面では優れているとされていますが、繊細な味づくりのためにあえて国産檜を採用。安全性は人間の努力でしっかりカバーする道を選びました。

人が集まる「舞台」づくり

お客さまにお菓子を届け、「直に触れ合える場=店舗づくり」も、大切な仕事。古民家再生によるカフェ付店舗を含む直営店でも、インターネット販売でも、お菓子を食べるあらゆるシーンを彩る「総合演出」によって、お客さまに幸せをお届けするのが廣榮堂の目標です。和菓子は、口にすれば形のなくなるもの。だからこそ、心に残る時間の提供が大切だと考えています。

そして、菓子づくりは人づくり。チームの一人ひとりが主人公になれる場を得られれば、会社という「舞台」も輝くはず。そして舞台には、そこに立つ者の背中を押す力がある――。そんな想いから、各種研修や人事面など、舞台裏での環境づくりを大切にしています。また、本社では情報共有と交流の場「センターテーブル」を用意。経営戦略資料から食べ歩きレポートまで、生の声と人の知恵が活かされる知識創造経営が実践されています。近年はこれをグループウェアでデジタルと融合させる道も探っています。

そして、まだ見ぬ新しい場へ

廣榮堂はいま、国境を越えて世界中のお客さまに和菓子を届けることにも意欲的です。2014年から始めた、東南アジアでの商品展開リサーチやハラル認証の取得はその第一歩。文化も味覚も、日本と似たところもあれば、まったく違うところもあったりと、それぞれ課題はありますが、新たな刺激にもなっています。お菓子を通じた幸せの舞台づくりは、まだまだ世界に広がります。